11. ものさしを使って能力やパーソナリティを測る
https://gyazo.com/93a402d72f37170c3763894b196d1a0b
1. 心理検査の基礎
「個人の心的属性(知能、能力、知識、スキル、パーソナリティ、興味、態度、行動など)を記述し、理解することを目的として、心理学の理論を基礎として、一連の刺激を一定の手順に従って被験者に呈示し、その刺激に対する被験者の反応を観察し、測定する方法」
1-1. 心理検査の目的
心理検査の目的は、人々の心理的属性を測定することによって、何らかの判断や意思決定を行うこと
一方、心理検査には、冷徹に人と人とを区別する道具であるという側面もある
1-2. 心理検査の役割
どんな心理検査にもそれが依拠する心理学の理論がある
心理検査はこうした構成概念を観察し、測定するための具体的な手段を提供する
1-3. 心理検査の内容と手順
ほとんどすべての心理検査は、検査参加者に何らかの刺激を呈示し、それに対する被験者の反応を観察し、測定することによって成り立っている
「刺激」の種類は多様
知能検査なら知能という構成概念を測ることを想定した刺激(たとえば積木問題) 刺激が与える条件は一定であり、時や場所によってその手順が変動することはない
さらに、被験者が示した反応をデータとして取り扱う手順も一定
ただし、後述する行動観察タイプの心理検査や投映法による心理検査には、必ずしもこの原則に当てはまらないものがある 2. 心理検査のタイプ
刺激の提示と反応の観察という観点から3つに分類できる
課題遂行タイプ
検査参加者にあらかじめ選定されている特別な課題を与え、その課題の遂行に成功したか失敗したかを測定するもの
行動観察タイプ
あらかじめ決められた具体的な課題は無く、一定の社会的状況という刺激の中で検査参加者がどのように行動するかを観察によって測定する 観察された反応は一定の基準に沿ってデータ化され、分析・解釈される
自己報告タイプ
被験者に感情、態度、信念、価値、意見、心理状態などを直接に尋ねる方法
手順としては、あらかじめ練り上げられ、選定された質問項目を検査参加者に呈示し、検査参加者の反応を観察し測定する
測定内容という側面から5つに分類もできる
知能・学力検査
適性検査
パーソナリティ検査
感覚運動検査
興味検査
3. 心理検査の成り立ち
検査の実施・採点・フィードバックのすべてのプロセスを一定のルールに基づいて行うことができるように、周到な手続きを踏んで検査を開発すること
3-1. 標準化のプロセス
心理検査の標準化は、通常以下のステップで行われる
1. 構成概念の同定と定義
心理検査で測定しようとする構成概念を明確にし、理論研究をもとにその定義を行う
2. 項目の作成
構成概念を測定するために適切な項目を作成する
3. 予備テスト
検査の対象として想定される被験者と同質の人に試行的に検査を行い、データを収集する
4. 項目分析
予備テストで得られたデータを、テスト理論に基づいて統計的に分析する 5. 項目の編集
項目分析で残った項目から、最終的に検査項目として使用する項目を選び出し、呈示順序を決めるなどの編集作業を行う
6. 本格テスト
さまざまな母集団から、サンプルデータを系統的、大量に収集する
7. 採点法の決定
本格テストから得られたデータをもとに、各回答に対する得点の与え方と検査結果を解釈する上での判断基準(norm)を作成する 8. 解説書の作成
心理検査の実施方法、採点方法、結果の解釈方法、についての解説書(マニュアル)を作成する
尺度構成と異なる点は6~8のプロセスにある
6~8は完成した検査が心理学研究者ではない一般ユーザーであっても、少しの訓練を受ければ使えるようにすることを目指している
標準化がなされた心理検査に必須な条件
偏りのない、十分なデータに裏打ちされている
施行が容易
結果を簡単に求めることができる
関連する統計指標(尺度構成項目・得点分布・信頼性・妥当性、など)が公開されている
判断基準が明確
3-2. テスト理論について
心理検査の標準化のプロセス
主要なテスト理論
観測得点($ X)は、真の得点($ T)と誤差得点($ E)からなる、$ X = T + Eという基本モデル
この式に以下のような仮定をおいて理論が展開される
誤差得点の期待値は$ 0である
誤差得点の平均値は$ 0である
真の得点と誤差得点の相関は$ 0である
古典的テスト理論では、被験者個人ではなく被験者集団の持つ特徴がテスト関連指標(パーセンタイル表・信頼性・妥当性など)に大きく反映される
理由
各項目の難易度を受験者集団における通過率(正答率や肯定率)で表す 各項目の識別力を項目得点(各項目の得点)と観測得点(テスト全体の得点)との相関係数で表す
テストの信頼性係数を真の得点の分散と観測得点の分散の比で定義する
個人の観測得点は標本集団の中の相対的位置に基づいて解釈される
項目反応理論での仮定
潜在特性の1次元性
項目の局所独立
項目反応理論の特徴
テスト項目の困難度や識別力が被験者集団とは独立に定義される
被験者の潜在特性値($ \theta)が回答(解答)した項目群とは独立に定義される
テストの分析が、項目の困難度や識別力といった項目レベルにまで及ぶ
今日広く用いられている心理検査の多くは古典的テスト理論に基づいて開発されている
また、信頼性係数の値が知られている場合には、個々の検査参加者の真の得点の区間推定が可能という特徴を持つ
しかし、古典的テスト理論にはその柔軟性に課題がある
古典的テスト理論では心理検査は確定された項目のセットとして捉えられる
バージョンアップするには、新バージョンを用いてもう一度「予備テスト」→「項目分析」→「項目の編集」→「本格テスト」という手続きを繰り返す必要がある
一方、項目反応理論を用いれば、新バージョンと旧バージョンの項目の一部を重ねるか、以前にテストを受けた検査参加者に新バージョンのテストを受けてもらい、等化(equating)という方法を用いて項目パラメータの推定を行えば、旧バージョンと同じ目盛りに合わされた新バージョンを開発することができる この項目反応理論が持つ、項目の自由な入れ替え・追加・変更が比較的容易にできるという特徴を利用すれば、多数の項目からなる項目プールを作ることができる
もちろん、項目プールに含まれる項目群は、潜在特性の1次元性、局所独立という条件を具備していなければならない
項目プールが出来上がれば、異なる項目からなる心理テストを多数の被験者に施行したとしても、そのテスト結果を比較することが可能となる
4. 心理検査を研究の中でどう用いるか
心理検査を心理学研究法との関連からとらえると、3つのテーマ
新たに心理検査を開発する
既存の心理検査を用いてリサーチ・クエスチョンを追求する
心理検査を実践で活用する
4-1. 心理検査を用いてリサーチ・クエスチョンを追求する
心理学の研究を行うには、まず研究テーマを設定することが不可欠
研究テーマが決まったらそのテーマに対する先行研究を調べる
その研究テーマの最前線を切り開くに当たっての具体的な研究課題
仮説検証型のものもあれば探索型のものもある
一つとは限らず、複数の場合もある
リサーチ・クエスチョンが決まったら、以下の手順を踏んで心理検査を研究計画の中に組み入れていく
心理検査で測定する変数を同定する
リサーチ・クエスチョンの中に含まれる変数を吟味し、そのうちのどの変数を心理検査で測定すべきかを判断する
心理検査を選定する
同定された変数を測定するのにもっとも相応しい心理検査を選定する
選定にあたっては検査の実地可能性についても検討する
心理検査を実施する
標準化された心理検査には必ず実施マニュアルが添付されている
マニュアルに書かれた手順を忠実に守って検査を実施する
検査結果を求める
実施マニュアルにしたがって反応のスコアリングを行い、検査結果を求める
リサーチ・クエスチョンへの解答を出す
心理検査で得られたデータなど、他の変数のデータとの関係性(相関関係、因果関係、媒介関係、調整関係など)を吟味して、リサーチ・クエスチョンに対する解答を導出する
4-2. 心理検査を実践に活用する
実践と研究が表裏一体になっている傾向
介入を伴う実践において、心理検査を用いる留意点とメリット
心理検査を用いる理由と目的を明らかにする
信頼関係が基礎となって行われているところに、客観的な測定ツールが理由もなく持ち込まれると、当事者間の信頼関係を壊すことにもつながりかねない
心理検査を選定する
実践に効果を生み出すと考えられる検査を選定する
選定にあたっては、クライエントやステークホルダーへの影響についても吟味する
説明責任を果たす
用いる心理検査の概要、目的、利用法などをクライエントとステークホルダーに説明する
心理検査を用いて介入を行う
実施マニュアルに沿って、心理検査を用いた介入を行う
投映法や行動観察タイプの心理検査では、マニュアルでは表せない特別な習熟が必要な場合がある
その場合には、その領域の専門家(専門のテスターやアセッサー)に検査を依頼することも必要
介入の効果を評価する
心理検査の結果をもとに、介入の効果を評価する
心理検査の実施そのものが介入となる場合には、心理検査を実施したことや結果のフィードバックを行ったことで、どのような変化がクライエントやステークホルダーに生じたかが評価の対象となる
一方、介入活動が心理検査の実施とは別に独立してある場合には、アクションリサーチやプログラム評価の中に当該心理検査の結果を組み入れて評価する